2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「骨董商Kの放浪」(13)

3月の初旬の或る日の午後、三代目の次の講義に向けて予習をしていた僕は、気がつくと、うたたねをしていた。その心地よい眠りを、携帯の着信音が妨げる。見ると才介からだ。僕は少々ムッとしながら「何だよ」と出ると、才介は大きな声で「寝てたのか?おい、…

「骨董商Kの放浪」(12)

師匠は、軸を箱に戻すとそれを手にし、土蔵の入口に立っている当主のところへ行き頭を下げた。「どうか、これを譲ってください」当主はあきれたように、「さっきも言ったじゃない。何ひとつ売るつもりはありゃせんよ!」中肉中背の50代半ばの当主は、毛皮の…

「骨董商Kの放浪」(11)

ひと月前に、才介から言われた「あんた、中国美術を学んでくれよ」の提案を受けて、僕はそれを実行に移そうと考えていた。日曜日になると余計に届くチラシのなかから、或る文化講座のお知らせをみつけたのが、先月の中旬である。『中国陶磁勉強会』と題した…