2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

骨董商Kの放浪(22)

僕はその夜まっすぐに帰る気力を失い、時折り夜空に浮かぶ満月を見上げながら、あてもなくふらふらとし、そして最後に犬山得二の家に辿り着いた。犬山は机で書きものをしている最中であったが、僕の遅い訪問に特段驚きもせず、無造作に伸ばした髪をかき上げ…

「骨董商Kの放浪」(21)

僕は、玩博堂(がんぱくどう)の出している土偶の写真を指し、三代目に訊いた。「これって、やっぱり贋物(がんぶつ)ですか?」それに対し「これの本物は、もちろんある。中国の紀元前3~4世紀くらいの黒陶の俑(よう)。ただ、非常に少ない。もっと造形がシンプ…

「骨董商Kの放浪」(20)

展示作品の最後を飾ったのが、清時代につくられた「粉彩(ふんさい)」という色絵で、牡丹を描いた一対(いっつい)の碗であった。これが粉彩かと思い、僕は凝視した。三代目の授業で、中国陶磁の最高位と解説していたのを思い出す。官窯のなかの官窯。まさに皇…