2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「骨董商Kの放浪」(7)

僕はその男の前にゆっくりと歩み寄った。僕に気がつくと、男は両膝を抱えたまま振り返り「こんにちは」と抑揚のない声で挨拶をした。「どうも」と僕も返す。40歳くらいだろうか。もじゃもじゃ頭の小太りな男は、上着の黒いジャージのジッパーを首まで上げて…

「骨董商Kの放浪」(6)

この頃、世の中の韓流ブームとは全く無縁と思える宋丸さんの店に、僕はしばしば通っていた。宋丸さんは僕の来店に、Reiの言葉を借りれば「ウエルカム」のようで、僕も宋丸さんに傾倒していた。宋丸さんの話しは、相変わらずつかみどころがなかったが、モノに…

「骨董商Kの放浪」(5)

強烈な印象を放つ白磁の大壺を見つめ「やっぱり、すごいですね」と彼女は言った。僕は胸の鼓動を感じながら「こ、この口の造りも見事でして、ここも見どころです」と学芸員のような解説をした。口縁部の立ち上がりが力強く折れて内側に向かっている。彼女は…